RESONANCE ~共鳴 (2012年8月)

人が小さいころから身につけて来た無意識の中の「信念」が強いマイナスの感情を作り出している。これはトラウマを考えてみると分かりやすい。嫌なことを思い出すたび腹が立ったりしてマイナス感情がぶり返し、その繰り返しが記憶をコンクリートの構造物ように強化してしまうからだ。トラウマを解消するためには、この無意識の信念を少しだけ書き換える必要があるのだが、意識の転換は、その人自身の内面の成長を必ず必要とするので少し時間がかかる。

しかし、優れた文学作品には、人の意識を変容させる力がある。たとえば、『はらへたまってゆく かなしみ』八木重吉(オルコット出版編)は間違いなくそんな作品の一つだ。若くして結核で亡くなった詩人の残り少ない生への思いが凝縮されていて、読み終わると自分の中の何かが少しだけ変わってしまったことに気づかされる。それは、日常の些細な一つ一つの出来事が、今この瞬間だけの貴重な体験だと改めて実感させられるからだ。短命だった八木重吉だけでなく、実は、読者の誰でもがこの世で残された時間には限りがあるということを自覚させてくれる。そんな時、誰しも今まで囚われていた思いが消えている。優れた文学作品とはそういうものなのかもしれない。ちなみに、父親と同じ80歳で亡くなるとすると、残りはあと27年である。日数にすると約10000日になる。地上に滞在できるのがわずか10000日だと仮定するなら、それはあっという間のことに違いない。